無限の太陽、永劫の月

   無知は罪?



先日決心したことを私は早速実行に移すことにした。
無知でいることはもうやめた。知りたいことをきちんと知ろうと思う。
だけど、ヘルからもヘルの屋敷の者からも情報を得る事についての期待はできそうにないのよね。
となると町に出てみるしかないと思うの。
本当は聞き込みなんかするときにはいつも、ブランシュがやってくれていたから私にうまくできるか自信はない。
けれどブランシュは現在、いないのだから仕方がない。
私が一人でやるしかないわ。

と、思ったんだけれど・・・・・・あれ、なんとかならないのかしら?
私は後から付いて来るいかつい鎧の男たちに目を向け今日何度目になるか分からない舌打ちを繰り返した。
そりゃ、私が攫われたせいで魔界のナンバー2とナンバー3が一週間の謹慎なんて言われたら、少しは責任感じるけれど・・・・・・。
だからって、ちょーっと町をうろつく程度のことにあんな目立つ護衛を付けなくてもいいと思わない?
私、一人だって十分強いのよ。
この前のあれは・・・・・・ちょっと油断していただけなんだから。
なのに、ルパートまでも私に護衛を付けるなんて言い出しちゃって・・・・・・。

ヘルだけなら簡単に断れるんだけど、なぜかルパートに言われると、弱いのよね、私。
ほら、あんな少年にまで心配されているなんて心苦しいからだと思うんだろうけど、そのせいで結局、こんなことになってるってわけよ。
仕方ないから、目立たないようにってお願いしたはずなんだけど、すっごく目立ってない? あれ。
なにも魔王直属の親衛隊を寄越すことないと思うんだけど・・・・・・これって嫌がらせ?
それとも私にかぎまわられると何か不都合でもあるのかしら。
・・・・・・あるわけない。たぶん。

ということで、そろそろいいわよね?
なんて、勢い込んで彼らを撒いたのはいいけれど・・・・・・現在、なぜか別の者たちにしっかりと護衛されていたりする。
原因は・・・・・・そう。もちろん私の横を歩く少女、ネージュにあるに違いない。
彼女は私が魔王親衛隊を引き離すのを待っていたかのように自然に私の前に現れた。
「ごきげんよう。人間のお姫様」
花のほころぶような見惚れるほどの笑みを浮かべて、第一声彼女はそう言って私にうやうやしく頭を下げた。

見た目、すごくかわいい貴族の少女。
華奢で、思わず守ってあげたくなっちゃう容姿は後ろで彼女を護衛している者たちの心を十分にくすぐるものなんじゃないかしら。
でも、でもだよ! そんな護衛つきの少女なんて、私はお近づきになりたいわけじゃないの。
できれば放っておいて欲しかったわ。
それなのに、私に興味を持っちゃったんだって楽しそうに笑う彼女に私は数度目のため息をつく。

彼女、ネージュの話によると私は貴族の間で結構有名な人物になっているらしい。
そりゃあそうよね・・・・・・。
ヘルとグラエスの謹慎の原因が私にあるわけだから。
「そういうわけでもないのだけれど。ふふ」
思わせぶりな態度で、口元を羽扇で隠しつつ笑う彼女はそのまま続ける。
「あのお方がとても大事にしているとお聞きしましたのでどのような方なのか、以前から興味津々でしたのよ」
あのお方って・・・・・・。
彼女も例のいいかげんな噂を真に受けた一人だったのね。

たまたま町に出てきたところを親衛隊に護衛をされた人間を見つけたので噂の人物に間違いないと思って近づいたんですの。
彼女はそう、終始笑い声を立てながら説明してくれた。
それにしても・・・・・・よくしゃべるわね。
短時間とはいえ、ネージュは出会ってから今までずっとしゃべり通し。
私だったらこんなにしゃべると、喉が渇くんだけれど・・・・・・。

「ね、わたくし今日はお芝居を見に来ましたのよ。ルネさんも一緒にご覧にならない?」
よく動くネージュの口元を見つめていたら、彼女はそう言うなり私の意見も聞かずに歩き出した。
それにあわせて彼女の護衛をしていた者たちも移動し始めるから私だって動かないわけにはいかない。
お嬢様に付き合わなければ、引きずってでも連れて行くぞって目で私に脅しをかけてるんだもの。

「せっかく親衛隊の護衛からお逃げになったところを申し訳ないけれど、わたくしの護衛は撒くとお父様が悲しまれるの。
なるべく目立たないようにってお願いしてありますので少し窮屈でしょうけれど許してくださいませね」
ネージュは私の視線に気づいたのか、申し訳なさそうに眉をよせた。
それでも私を離してくれる気はないらしい。
スキップでもするんじゃなかろうかというほどの勢いでぐいぐいと私のことを引っ張る。
この調子では、私は芝居を見に行く気なんてまるでないのよね、なんて反論も受け付けてはくれなさそうだわ。

「わたくしのお父様、ユウジン・キンブリーズはね、この国でナンバー4の実力者ですの。
ですから、わたくしだってあのような者たちに守っていただかなくても暴漢の一人や二人やっつけられますのよ。
あの方たちもそれは分かっていらっしゃると思いますけれどそれでもやはり、守っていただかなくてはなりませんの。
彼らは守るのが仕事、わたくしは守られるのが仕事。なのですから」
ネージュは道すがら、ニッコリと笑顔を絶やさずに私に囁いた。
おそらくそれは、後ろから付いてきている者たちに聞かせたくないからというもあるだろうけれど、私だけに聞かせたかったからなのだろう。

つまりは・・・・・・私を護衛してくれている人たちから逃げてはいけないってことだよね。
ネージュの父は魔界のナンバー4の実力を持つ人物ってことは、その娘である彼女の魔力だって相当なものなのだろう。
それでも彼女は絶えず監視されているかのような窮屈さを我慢して、護衛を付けて歩いている。
彼らの存在を疎ましく思うこともなく、敬意を持って受け入れてる。
そしてきっと今の彼女の言葉は、何も考えずに護衛してくれてた親衛隊を撒いてしまった私に対しての注意なのだろう。
なんだかいつもは強気な私だけれど、ネージュの言葉を聞いて少し反省した。
そうよね。みんなが私のことを心配して付けてくれたんだもの。
少しくらいうざったくても、撒いたのはよくなかったのかも知れない。

ネージュのこと、少女だなんて思ったけれど、彼女は私なんかよりもよっぽど大人なのね。
そう思って改めて、彼女の整った顔を私は見つめた。
それなのにネージュはさっきまでの空気を一瞬にして無にするほどの無邪気な表情で私に飛びついた。
「ほら! ここが今人気の芝居小屋『夜天劇団』ですのよ」
そうして少し上気した頬で、興奮気味に目の前の建物を指差したのだった。


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11/01/10
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