無限の太陽、永劫の月

   無知は罪?



気づいたときには、護衛長をのぞく全ての男が私たちに剣を向けていた。
「ル、ルネ様。お嬢様を頼みます」
護衛長はじりじりと後退しながら言うと、抜刀した。
だけど明らかに分が悪い。
「なんで? 彼らはあなたと同じ、ネージュの護衛じゃなかったの?」
「そのはずなのですが・・・・・・」
私の声に応える彼はただ一人で私たちを守ろうと、離反した男たちの前に立ちはだかる。

しかし、私たちの疑問はすぐに晴れた。
「大人しくあんたの大事なお嬢様をこっちに渡してもらおうか」
杖の男が下卑た薄笑いを浮かべながら、男たちの間から私たちに向かってそう言ったから。

「断る!」
「けっ、お前一人で何ができる? こっちはこの人数だ。しかも、一番厄介なお嬢様の魔力は封じさせてもらった。 そっちに勝ち目はねぇぜ」
護衛長と杖の男がやり取りをする間に、私はネージュを見た。
だって、あの男が言っていたもの。魔力を封じたって。
ということは、彼女が急に魔力を失って倒れたのはそのせいってことじゃない?

──そういえばさっき、ネージュに杖の男が何か渡していたわね。
思い当たった私は彼女の手を取ると、その指にはめられた指輪を見た。
「おっと、それには触らないほうがいいぜ。人間が触ったら、魔力だけじゃなく生気まで吸われて死ぬかもな」
「でもこれは・・・・・・さっき見たときには確かに守護の力が働いていたのに」

ちゃんと確認したはずのそれは、いつの間にか守護の力をなくし、禍々しい魔力を放っていた。
「そこがその指輪のすごいところさ!  普段は守護の指輪にしか見えないのに、特殊な呪文で発動させると・・・・・・魔力を吸収する呪いの指輪に早変わりってな」
したり顔の杖男は得意げに言うとこっちに少しづつ近づいてきた。

「しかし感謝しないとな。お嬢様の芝居好きにはよ。 依頼主には傷一つない状態で攫えって言われたが、なかなかその機会がなかった。 そいつの親は何か感づいたのか、いきなり護衛の数を増やしやがるしな。 それが、ちょっと有名な芝居の話をすれば、簡単にお嬢様から外に出てきてくれた」
杖男は依頼の成功を確信したのか、気が緩んだのだろう。
なぜこんなことをしたのか、自分の目的を饒舌に話し始めた。
それにしても、依頼主って誰なのかしら?
キンブリーズ家は4大貴族で、彼女のお父様はこの国のナンバー4だというから・・・・・・それを蹴落とそうとするものの陰謀?

「お嬢様をこっちに寄越せ。悪いが護衛はお前以外全員、買収させてもらったからそっちに勝ち目はないぜ」
杖男はそう言うと、たった一人で私たちを守ろうとする護衛長に向かって杖を振り上げた。
残念ね。もうちょっといっぱいしゃべって欲しかったのだけど・・・・・・ここら辺が潮時かしら。
これ以上の情報を杖男から聞き出せないなら、護衛の後ろで震える少女の真似はもうおしまいにするわよ?
杖男も、その他の男たちも私のことを単なる人間だと思っているようだけど・・・・・・たとえ彼らが魔族でも、 私から見れば人間とたいして変わりはないのよね。

彼らに向かう前に、一応ネージュの周りにいつものようにサンダーシールドを気づかれないように張る。
このくらいのシールドならば、詠唱なしでも大丈夫でしょう?
・・・・・・それにしても舐められたものね。
ネージュを背にして立ち上がった私に、目をくれる者なんて誰もいないんだから。
ただ一人、護衛長だけが危ないのでお下がりください! と私をかばおうとする。

そして皆、私がネージュの周りにシールドを張ったことすら気づかない。
こんなんで本当に魔族と言えるのかしら?
私を侮った罪を、本来ならばその身にたっぷりと刻みつけてやりたいところだけど・・・・・・今回は許してあげるわ。
だって、まだ荒い息づかいをするネージュのことが心配なんですもの。
ここは、さっさと終わらせ──。

「お前たち、何をやっている?」
私が杖男率いる強襲者たちに攻撃をしようと手を振り上げたちょうどその時、林の中から一人の少年が現れた。

「なんだ、子どもかよ。脅かしやがる」
突然介入してきた者が少年だと分かると、強襲者たちは途端に興味を失ったのか、こちらに視線を戻す。
しかしその直後、少年は腰に携えた剣を抜き、私たちを守るように立った。
「おいおい、俺たちは子どもの相手なんかしてる暇はねぇの。ケガしたくなかったらそこをどきな」
「お前たちこそ、ケガをしたくなくば退くがいい」
少年は相手の人数が多いにもかかわらず、臆することなく言い放つ。

「そんなら、まぁ・・・・・・お前にも死んでもらうぜ」
杖男が言うと同時に、強襲者の一人が少年に飛びかかった。
しかし少年は慌てず剣を持つ片手でそれを受け止めた。
そこで初めて男たちは顔色を変えた。
「お、おい。その剣はまさか!」
少年が持つその剣はうっすらと青白い輝きを放っていた。

「あのお方は・・・・・・」
そしてネージュもまた、そんな剣を持つ少年に心当たりがあったみたい。
だけど少年はそれには構わず、襲い掛かる強襲者を次々にその剣で受け止め、交わし、そして倒していった。

どうやら男たちの相手はあの少年だけで十分ね。
この前会ったときには分からなかったけど、少年──リオ──はかなりの剣の使い手だったみたい。
強襲者は彼に任せ、私はネージュの指輪を何とかしたほうがよさそう。

杖男は私に、指輪に触れば命はないと言った。
けれど残念だったわね。
魔力を吸収する魔石なら、すでに何個か身に付けているわ。
今さら一つくらい増えたところでたいした負担になるわけないじゃない?

「指輪を見せて」
「で、でも・・・・・・」
だけどネージュは私がそんな魔石なんか何ともないって知らないから、指輪を調べようとするのを見てそれを背中の後ろに隠す。
それに触って命を落とすのことを本気で心配しているんだ。
自分の身だってつらいのだろうに、私のことまで心配するネージュに私はなんだかあたたかな気分になる。
「ふふ、大丈夫よ」
思わず微笑を浮かべた自分にびっくりしながら私はネージュの後ろに手を回し、彼女の手にそっと手を重ねた。

途端、私の体から魔力がネージュの指輪に向かって流れ出す。
そして・・・・・・パキン。
小さな音を立てて指輪に付いていた石が砕け散った。私の魔力を吸ったことによって、石はその許容量を超えたのだ。
「力が・・・・・・」
魔石が無くなったことでネージュの吸い取られた魔力は、体内へと帰ったのだろう。
力が戻った彼女は急いで立ち上がると、ついでとばかりに手を伸ばし、私が立ち上がるのを助けてくれる。

「ば・・・・・・ばかな!」
始終を見ていた杖男は信じられないという顔でしばらくこっちを見ていたけれど、まわりの男たちが全員倒されたことに気づくとその場から姿を消した。
まったく、ああいうヤツは逃げ足だけは速いのよね。
だけど顔は覚えたから、今度会ったらただじゃおかないわ。

「大丈夫だったか? ・・・・・・って、あれ? ルネじゃないか」
キンと硬質な音を立てて剣を鞘に収めたリオがこちらに振り向いた。
久しぶりに会ったリオは私の顔を見るなり、どうしてこんなところにいるんだと言いたそうに首を傾けた。
だけど、私だって好きでこんな林の中に入ったわけじゃないのよね。

「あんた・・・・・・本当にトラブル体質なんだな」
わけを知ったリオは、私に同情した目線をくれるけれど・・・・・・。
「それをあなたが言う?」
前回私をトラブルに巻き込んだ張本人のくせに、リオは私にしみじみとした口調でつぶやいた。


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11/01/19
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