無限の太陽、永劫の月

   恋は激しく 芝居のように?



「──そういうわけで、ルネさん。わたくしたちはエトワールを探しに、人間の住む国へ行かなくてはならなくなってしまったのです!」
お馴染みのスタイル、両の手を組み夢見るような表情を浮かべたネージュは言った。
だけどそんな、劇中に出てくるようなアイテム、本当に実在しているの?
そして・・・・・・ルパートは何を考えているのかしら。
エトワールを手に入れたほうをフラスコ家の次期後継者に推す、だなんて。
きっと楽しそうってだけで言い出したんだろうけど、魔王がそんな命令を出していいのかしら。
「さあ行きましょう! 人間の住む国バルザールへ。いざ行かん、愛と冒険の旅へ・・・・・・ですわ」
ネージュはそう言って、苦い表情を浮かべる私の手を取った。
「──って、私も行くの?!」
「当然ですわ。ルネさんは私たちの恋のキューピッド! 最大の味方ですもの!」

なんて・・・・・・うまい具合に引っ張り込まれた私は、リオ率いるエトワール捜索隊のメンバーとしてネージュたちとともに旅をすることになった。
「魔界には森が多いのね」
馬車の座席の上に足を抱え込むようにして座った私は、外を眺めながら呟いた。

魔界の深層──その空気は強い魔の気に満ちていて人間は奴隷環なしに生きていくことができない。
だけどそんな魔界も、実は人間の住む世界と同じ一つの大陸の上にあるのだ。
二つの界を隔てるのは、幾重にも重なった森。
ずっと昔、濃い魔力から人間を守るため、そして効率的に魔力を吸収し力を回復するため、人間と魔族はともに協力してこの森を作ったらしいわ。
だから森の深層、首都ショラブルーニアに近づくほど魔の気は強くなり、遠ざかるほど魔の気は弱くなる。
そして魔族も・・・・・・深層に近づくにつれて強くなるらしい。

そんな森を、私たちはネージュの家で用立てた馬車に乗って移動中。
この国に来る時は、一度首都の見える小高い丘を中継したとはいえ、魔法によってほぼ一瞬で移動したから分からなかった景色を今度は馬車でゆっくりと堪能。
というよりも同じ馬車に乗る2人が仲良すぎて、私って邪魔? って言いたいくらいだから自然と視線が外に・・・・・・。
それにしてもいつの間にあんなに仲が良くなったのかしら。
チラリと目を向け・・・・・・私はすぐさま外に視線を戻した。見なかったことにしよう。うん。

だって、リオの膝の上にネージュが乗ってて、キスしてたんだもの!
そ、そりゃあ、私だってそのくらい見たことあるわよ?
お義兄さまとお姉様もしてらっしゃったし。
だけどだけど、こんな、至近距離でばっちり見ちゃったのは初めてよ!
いやだわ、動揺して顔が赤く・・・・・・。
ピンクの花を飛ばしたような空間にいる2人にはばれてないとは思うけど、こんな、3人しかいないせまい馬車の中ではしないで欲しかったわ。
ど、どうしよう。私、外に出てたほうがいいのかしら?
ぎょ、御者台にでも、いい移動するべき?
ああ、意識すればするほど、つい視線があっちにいってしまう。
会話? そんなもの聞いてられない。こっちが恥ずかしくなっちゃうのもの。

それもこれも全部、この馬車がいけないんだわ。うん。
せっかくネージュのお父様が用立ててくれたからって、乗るんじゃなかった。
いつもの要領で空間転移使えばよかった。
とりあえずの目的地はブランシュのいるアンダゴルだもの。
転移用の鏡を使って、さっさと行くべきだったわ。
魔界の馬っていうのが珍しくってつい、乗っちゃったけど・・・・・・後悔。
なるだけ足を折り曲げ、目立たないように小さくしてるしかないわ!
この状況で彼らと目があったりしたら、気まずすぎる。

なんて肩に力をいれて小さくなっていた私は、馬車が急に止まった瞬間見事に座席から転げ落ちた。
「・・・・・・何を遊んでるんだよ」
「ううぅ!」
したたかに肩を床に打ちつけた私に、リオの冷めた声が降ってきた。
何って、あなたたちのせいで私はこんな目に・・・・・・!
涙目になりながら立ち上がり、睨みつけようと振り向いたけれど、そのときには2人ともすでに馬車から降りようとしていた。
ああ、もう! 気を使って緊張してた私が馬鹿みたいよ。
今度から2人がどんなにいちゃいちゃしてても無視なんだから!

ぷりぷりしながら馬車から降りると、そこはすでに魔の気が消えていて・・・・・・遠くには人間たちの住む集落からと思われる煙が昇っていた。
「さ、ここからは人間たちの世界。魔界の馬は人間の世界では生きていけませんのでここからは徒歩ですわ」
ここまで馬車を操っていた御者が、私たちの荷物を下ろしにかかる中、ネージュが希望に満ちた声で言った。
「数々の困難、立ち塞がる敵、行く手を塞ぐ難題・・・・・・。しかし、何者もわたくしたちの恋を阻むことはできないのです!」
なんだか、目的が変わっているのは気のせいかしら。
でもよかった。これであのピンクの花が飛んでる空間から開放されるのよ!

さっさとこの状態から抜け出したかった私は、御者が荷を全て降ろすのを見ると2人の確認も待たずに意識を集中し、そのまま一気に転移の魔法を使った。
だって、ここからは歩くって言ってたし・・・・・・2人とも、荷物いっぱい持ってたし・・・・・・。
いいじゃない。早く着いたんだから。
状況整理ができてないみたいで、頭を抱えてしゃがみこんでる2人に、私は思いっきりの笑顔を向けた。

「ここがアンダゴルの領主館よ。
バルザールからはまだまだ遠いメルビッツの北の端だけど、領主のトリシャは話の分かる人だし、ここにはブランシュもいるのよ!」
ああ、私の守護者ブランシュ!
兄のように、従者のように、いつも私を守ってくれる。
今ほど彼に会いたいと思ったことはないわ。

だって、彼だけはいつも私のことを一番に考えてくれるもの。
そう思った私の目には気配を察したブランシュが、急いでやってくるのが見えた。
その両手に、しっかりとトリシャの体を抱きかかえて・・・・・・。


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11/03/29
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