無限の太陽、永劫の月

   恋は激しく 芝居のように?



嗚呼、ブランシュ。あなたもなのね。
私の気配を感じ、駆けつけてくれたブランシュは身重なトリシャの体を気遣ってここまで来る途中抱き上げたのだという。
いつの間にそんなに仲良くなったのかしら・・・・・・。
「恋愛には時間は関係ないってお姉さまが言っていたわね」 なんて私は過去の話を思い出していた。

「──じゃあ、そのエトワールとやらを探すために姫さんは帰ってきたってわけか」
彼らの事情を2人に話したところ、ブランシュはそう言ったっきり腕を組んで押し黙った。
そりゃあそうよね。
これからトリシャと新しい生活を送ろうって時に、また私がやってきたんだから。
それも、リオとネージュの旅に巻き込まれた形で。
それでも以前のブランシュだったら躊躇なく私について来てくれたと思う。
だけど今は・・・・・・。
チラリ、とブランシュの後ろに立つトリシャに目を向けた。

彼女のおなかの中には、ブランシュの子どもが宿っている。
そうなることを願ってブランシュから離れて一人で魔界に行った私だけれど、実際にそれを見ちゃうと・・・・・・少し寂しい。
もうブランシュは、私のわがままに付き合ってくれる存在じゃないんだ。
本当は祝福しなければいけないのだけれど、なんだか急に彼が遠くにいってしまったみたいに感じて、私はうまく笑顔が作れない。
だけど私はそろそろ決心しなければならないんだわ。
ブランシュを私のもとから開放してあげることを。

彼を頼ってはいけない。
これからの私は、一人で生きて行かなくてはならない。誰の助けも借りず。
少し不安だけれど魔法の技術もあるし、こっちに来てから何人か知り合いもできたし・・・・・・きっと、なんとかやっていけるはず。
それに今はリオとネージュの手伝いで、当分は一人になることもなさそうだしね。

けれど、暗くならないように必死に平静を装った表情を作っていた私の頭にポンと手をおいてブランシュは言った。
「どこかに行くなら、俺は姫さんについていく。それが俺の一番だからな。トリシャもそれは承知の上だ」
「ほ、ホントに? ありがとう」
私は嬉しくなって思わず彼の首に飛びついた。
「まあ、俺は姫さんの兄、だからな」
「うん、うん!」
私は何度も頷きながら、ブランシュに抱きついたまま顔をあげた。
するとその肩越しに、仕方ないなという表情のトリシャが見えた。

「ごめんね、トリシャ」
本当はブランシュに頼ってばかりじゃいけないってことも、ここで突き離さなきゃいけないってことも分かってる。
だけど今までずっと彼と一緒にやってきたから、いきなり一人になってしまうとどうしていいか分からないの。
だから、今回だけは許して欲しい。この旅で最後にするから。
「気にしなくても大丈夫だよ。ルネにはいろいろ助けられたし、ブランシュが君の兄だと言うのなら私にとっても君はかわいい妹なのだから」
そう言ってくれたトリシャの笑顔は、あの事件のあとの少し寂しそうなものではなく、暖かかった。
「それに、私は一人ではないのですよ」
彼女は膨らみかけたおなかをさすり、再度微笑んだ。

「話が終わったところで悪いんだが、バルザールに行く前に、ひとつ確認しておくことがある」
突然ブランシュが、明るい雰囲気を吹き消すような鋭い視線をリオに向けた。
「お前の求めるものには大きな力があるんだろう? だが、たいていの物は大きな力と引き換えに、それに見合う義務と責任が生じる。
お前はそれを全て背負いきる覚悟があるか?」
問われたリオは即座に答えた。
「当たり前だ! どんなことだって受け入れて見せる」
「その剣を失うことになってもか?」
きっとその問いは、大きな力を持つ聖剣ブランシュを所持する彼だからこそ出た言葉なんだろう。
しかし、いつも大事そうにしている件の剣を指差すブランシュに対して、リオは今度ははっとして下を向いた。

「その決意がないなら俺はお前を手伝えない。もちろん、姫も連れては行かせない」
「ひどいですわ。リオ様にとってあれがどんなに大切な剣かも知らないで!」
ブランシュの言葉に何も言えず俯いてしまったリオの代わりにネージュが噛み付いた。
いきなり険悪な雰囲気になってしまって、空気が張り詰める。
「おい、ネージュ・・・・・・」
リオが彼女を諌めようとするけれど、彼女は意地になってしまったみたい。

「大丈夫ですわ。リオ様は陛下も認めた魔剣の使い手。わたくしとて4大貴族の出身。
どのような敵が現れようと、決して後れは取りません」
このままではネージュはリオと2人だけでバルザールまで行くと言い出しかねない。
だけどここで2人を放り出すのは心配。できれば4人で仲良く行きたいところだけど・・・・・・無理なのかしら。
「・・・・・・ねえ、ブランシュ」
2人だけで行かせたら、あとで絶対後悔するもの。

初めて魔族の国から出てきた2人にバルザールまでの旅は厳しい。
それに・・・・・・エトワールを狙っているのはリオだけではない。
リオの従兄弟であるヴィスヴィルだって狙っているのだ。
彼らが道中、リオたちに余計なちょっかいをかけてこないとも限らないのに、彼女たちだけなんて無謀だわ。

ブランシュに目を向けた私の瞳を、しばらくの間真正面から受け止めたブランシュは、諦めたようにため息をついた。
「はぁ・・・・・・。分かった。分かったって。剣のことはおいといてとりあえず、陛下も認めた剣の腕ってのを見せてみな」


...to be continued.



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11/04/13
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