無限の太陽、永劫の月

   裏切りは花の香りとともに



勝負は予想通り、ブランシュの圧勝で終わった。
だけどそのあとがまずかった。
どうして空間転移で一気にバルザールに飛んだにも関わらず、毎日毎日2人で剣の稽古をしてるのよ?
ここに何をしにきたか、わかっているのかしら。
2人が朝から晩まで、それこそ他の何もできないくらいみっちりと剣の修練をしているものだから、私とネージュの2人だけでエトワールを捜しているんだからね。
本当に捜す気あるのかしら?
そして、エトワールなんて本当にあるの?

「ねえ、やっぱりそんな石ないんじゃないの? それに、本当にバルザールであってるの?」
私はソファに座って足を投げ出した。
この一ヶ月エトワールって言う名の宝石を捜しているけれど、手がかりはまったく得られていない。
誰に聞いてもそんな石見たことも聞いたこともないって口を揃えて言うんだもの。
そろそろ、どこを捜せばいいの? ってくらい捜してない場所を見つけるほうが難しくなってきた。

だいたい、エトワールどころか魔力がなくても魔法が使えるようになる石なんて物の噂さえ聞いたことないんだけど?
「ドロシーの脚本はいつも事実に忠実なのです。そして彼女がバルザールと言ったのですから、間違いはありませんわ」
ネージュはそう言い張るけれど、私はそのドロシーって人に会ったことないから、そこまで盲目的に信じられないのよね。

「だいたい、捜す人間が少なすぎると思わない?」
捜し疲れて休憩中の私は一人、メイドのカレンが渡してくれた紅茶を飲みながらため息をつく。
「も、申し訳ございません、お嬢様。弟のサウザンもせっかく目が見えるようになったのに、ちっともお役に立てませんで──」
私の言葉を聞き咎めたカレンが申し訳なさそうに頭を下げる。
「あなたたちはいいのよ。よく働いてくれているわ」
問題は、エトワールが欲しいって言った本人と、ブランシュなのよね。
はぁ。再度ため息をつくと、中庭から聞こえてくる音に私は耳をすませた。

カレンとサウザンの兄弟は、この世界にきて最初に私が市場に行った時、奴隷として売られるところだった。
それを引き取ったのだけれど、そのときカレンは足を引きずっていて、サウザンは盲目だった。
だけど2人とも今ではすっかりよくなった。
特にサウザンは呪いをかけていた魔女、ドローチェが倒れたことによって目が見えるようになった。
魔界にいる間、2人がこの屋敷を守っていてくれたからこそ、こっちに来てすぐ私たちは快適な生活を送れている。
他にもいろいろと私の力になってくれているから2人はいいのよ。2人はね。

中庭から聞こえる、途切れることない剣を打ち合う音に再度耳をすませる。
これは、アンダゴルでブランシュとリオが対戦してから、こっちに来てずっとなのよ。
どうしてそこまでして鍛えなきゃいけないのか疑問なんだけど、この件に関しては私の意見なんて挟めない何かが2人の間にあるのよね・・・・・・。
あの日2人が腕試しと称して剣を交えるのを止めていたら・・・・・・私もこんなにバルザール中を走り回らなくてすんだかも知れない。
なんて、今になって後悔してもしょうがないことなんだけどっ。

どうやっても超えられない高い壁の存在を知ったリオは、ブランシュに剣の稽古を願い出た。
それにブランシュが答えたのだけれど・・・・・・絶対やりすぎだってば!
たまに私が治癒魔法を使わないといけないくらい、リオが傷ついてることだってあるんだからね。

それにしても私たち、ヴィスヴィルとやらに本当に勝てるのかしら?
せっかくアンダゴルからバルザールまで一瞬でやってきたというのに、エトワールの手がかりなんてまだ1つも見つけてない。
それなのに、ヴィスヴィルたちももうすぐこの国に到着する頃合よ。
予定では、彼らが来る前にエトワールを手にいれ、ショラブルーニアに帰るはずだったんだけど・・・・・・。
ノーヒントだわ、人手は足りないわで、私たちは結局いまだにエトワールを手に入れられずにいる。

ヴィスヴィルはリオの父君の弟の息子で、リオと同じように次期フラスコ家の当主の座を狙っている。
あっちは父親が全面的に支援するのに、こっちはリオ父からの支援は受けられない。
こんな調子では、彼らに逆転されるんじゃないかと心配しているのは私だけなの?
どうしてみんな、そんなにのんきに構えていられるか理解できないわ。

「こうなったら、ブランを呼ぶしかないのかしら」
ブランは、船乗りだった父の影響ですごく物知りで、この屋敷の地下にある蔵書はすべてブランの物だったりする。
だけど今はメルヴィッツの皇太子になったリンの護衛役として、その傍に仕えている。
そんなブランにコンタクトを取ったら、私がリンの手の届かない魔界から戻ってきているって知られちゃうじゃない!
ドローチェを倒した国の英雄として表彰されると聞いて魔界に逃げたのに、意味なくなっちゃうでしょ?
できることなら私がここにいることは誰にも知られたくないのよ。
ほ、ほら。髪だって金髪は目立つって思ってわざわざ茶色に染めているんだし。

だからブランを呼ぶのは最終手段よね・・・・・・。
私は立ち上がり、そろそろ剣だけでなくエトワール捜しにも力をいれてほしいと言いに中庭に出た。
さすがに、近くで見る2人の打ち合いはお互いが手錬れているだけに見ごたえがある。
迫力のある打ち合いに口を挟めなくて・・・・・・それどころか流れるような2人の動きに私は見入った。
数合、激しく交わる剣の音が響く。
力は拮抗して・・・・・・いえ、まだブランシュのほうに分があるみたい。

でも、少しおかしい。
リオが強くなったからなのかも知れないけれど、なんだかブランシュの動きに違和感を感じる。
今日の彼は調子が悪いのかしら?
いつもなら、どんなに強い相手と剣を合わせていても、私が傍に来れば気づくはずだもの。
だけど今日のブランシュは私が庭に出てきたことにまったく気づいていない。
それに、なんだろう。
今のブランシュは、経験の差で辛うじて勝ちを取っている。そんな感じに見える。
気のせいであればいいのだけれど・・・・・・胸騒ぎを感じた私は、庭で剣を合わせる2人に何も言うことなく再び屋敷の中に戻った。

戻ってみると、部屋には朝早くエトワールを捜すために家を出たネージュが帰ってきていた。
「どうしましたの? 元気がありませんわね」
彼女は私を見て首を傾げた。それには答えず、私は逆にネージュに問う。
「それよりも、収穫はあったの?」
「え? ないですわ。何にもないのです。いつも通り・・・・・・」
いつもと同じように聞いた私に、ネージュは不自然なくらい目を泳がせて平静を装った。
だけどその時の私はブランシュのことが気になって、ネージュが少しおかしかったことをたいして気にも留めなかった。

だって、絶対おかしいもの。
無敵のはずのブランシュが、あんなふうにむきになって剣を振るっているところなんて、私は今まで見たことがない。
あんな調子でやっているから、リオが怪我をしていたんだわ。
ブランシュはなぜ、あんなにリオに剣を教えることに没頭しているの。
そういえば、アンダゴルでリオに言っていたわね。
エトワールが手に入った時に生じる義務と責任。
それから、白の魔剣を捨てなければならないかも知れない覚悟。

大きな力を持つ聖剣の担い手だからこそ、ブランシュには分かることがあるだろうか。
そして、リオもそのことを感じ取っているからブランシュについて稽古をしているのかしら。
だとしても・・・・・・だとしてもよ? 目的だけは、思い出してもらわないと困るんですが!


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11/04/14
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