無限の太陽、永劫の月

   裏切りは花の香りとともに



──夢を見た気がする。
悲しい夢を。

──リンネはルンネを見て、小さく笑った。
「だって私たち、たった2人の兄妹なんだよ?」
優しい瞳、暖かな声。
リンネなら僕を拒んだりしない。
受け入れてくれる。
だって僕たちは双子なんだもの。
ルンネも小さく笑い返した。

リンネから向けられるのは好意的な目だとそのときは信じた。
だからルンネは安心した。心を許した。
だって、リンネを疑う理由なんてないじゃないか。
リンネだけが僕に笑顔を向けてくれる。
そう思っていたのだから。

「何かあったら、私がルンネのこと、絶対守るからね。私はルンネの味方だもん」
「うん! 僕も、リンネのこと守るよ」
嬉しかった。
守られることが。味方がいるってことが。
だって、両親はルンネを怒ることはあっても守ってはくれない。
信じられるのはリンネだけ。味方でいてくれるのもリンネだけ。
だからリンネだけは守ろうと思った。
どんなことをしても。

自分の中に人にはありえないほどの膨大な魔力があることも、そのせいで恐れられ疎まれていることも分かっていた。
だからこれ以上嫌われないように、絶対に魔力なんて使わないって誓った。
だけど、リンネのためならこの力だって進んで使える。
大丈夫。僕が力を使ったとしてもリンネだけは味方でいてくれる。僕はもう一人じゃない。

それからしばらくしてだった。
進入禁止の森でリンネが魔獣に襲われたのは。
追いかけて行った僕が見ている目の前で。

リンネは恐怖で足が竦んで動けなくなっていた。
そんなリンネに魔獣は今にも飛びかかりそうだった。
もうリンネを連れて走って逃げようにも間に合わない。
ルンネは生まれて初めて、この時、意図して力を使った。
手のひらを魔獣に向けて。
そして、夢中で念じた。──燃えろ! と。

一瞬だった。
ぼぅっと音がしたかと思うと、一瞬で魔物は燃え尽き炭となった。
だけど、それだけじゃ終わらなかった。
力が、止まってくれないのだ。
それまでなるべく使わないように抑えつけていたモノが、意図して使ったことで枷を外されたように行き場を見つけ溢れ出す。
ルンネにはそれを止めることはできなかった。
──どうしよう。止めなきゃ。
ルンネは焦ったが、焦れば焦るだけまわりは炎に包まれていく。
森はどんどん燃えていき、やっと炎がおさまったころには、辺りは焼け野原と化していた。

その後、僕は大人たちに広場に呼び出された。
きっと森を燃やしてしまったことを責められるんだ。
だけど怖くない。
だって、リンネを守るためにやったんだから。
両親は助けてくれなくとも、きっとリンネが僕をかばってくれる。
だって、僕たちは兄妹なんだから。

でも・・・・・・リンネはただ、母さんの後ろから怯えた目で僕を見るだけだった。
まわりの大人たちに化け物だと罵られるよりも、僕には彼女のその目のほうが堪えた。
やめて、そんな目で僕を見ないで。
1歩後ずさると、殺せ! そう誰かが言う声が聞こえた。
すると、みんな口々に殺せ!殺せ! と言いはじめた。

怖くなって僕は、彼女に救いを求めた。
「コロセ」
目が合ったとき、彼女の口は確かにそうつぶやいた。



──人は裏切る。
それがどんなに親しい間柄の者でも。
そんなこと分かっていたはずなのに。
それなのに、また私は信じてしまった。
あの時と、同じように・・・・・・。

「──め。ひめ。姫!」
ブランシュの呼ぶ声が遠くに聞こえる。 けれど、私は夢の余韻が残っているみたいで頭がぼぅとして働かない。 どんな夢を見ていたんだっけ・・・・・・。覚えていないけれど、とても悲しい夢だったような気がするわ。
「姫? 大丈夫か。傷はもういいのか?」
いつも以上に寝ぼけている私に声をかけるブランシュは、そう言って私の顔を覗きこんだ。
だけどそのブランシュの、傷と言う言葉で私はあることを思い出した。
そして勢いよく体を起こした途端、なぜか頬を涙がつたって落ちた。
「・・・・・・?」
「大丈夫か? なんか、うなされてたぞ」
ブランシュがこぼれた私の涙を拭きながら言うけれど、夢の内容を忘れた私は大丈夫だと首を振った。
悲しい夢ってことは覚えているけれど、ただの夢よ。
そんなことよりも・・・・・・。

「おっ。ルネ! よかった。目が覚めたんだな」
私たちの声を聞きつけたらしいリオも部屋に入ってきた。
2人が揃ったところで、私は何があったのか話した。
「なんでネージュはいきなりあんなことしたのかしら・・・・・・?」
つぶやいた私の声に、2人は顔を見合わせる。
「やはりあの女か」
リオの冷たい声に違和感を感じながらも私はうなづく。

「だけど理由が分からないのよね」
私、ネージュに嫌われることしたかしら?
首を捻って思い出そうにも、心当たりがまったくない。

「んまあ! 2人とも出ていってください!」
ネージュが私を刺した理由を考えていると、急に金切り声をあげてカレンが部屋に入ってきた。
「朝から男性が2人、レディーの寝室で、いったい何なんですかー!」
ブランシュが朝から寝室にいることなんて、私が小さい頃からのことだから慣れっこだし、この服も寝巻きじゃないからいいのに。
そんな軽い気持ちでどうってことないって言ったら、カレンはなぜか目を剥いて言った。
「いいから! さあ、さあ! 今日は私が支度をお手伝いさせていただきますから!」

ちょっとだけシリアスだった雰囲気は彼女の出現ですっかり騒がしくなってしまった。
そんなカレンのいつもよりちょっと張り切った様子に苦笑しながらも、男性陣2人は私の部屋から追い出された。
「今日はいつもより元気なのね、カレン」
私がネージュに刺されたってことを知らないらしいカレンの様子にほっとしながら、ふふっと声を立てて笑った。
このところ、カレンは少し控えめだったから、なんだかからかいたくなったのかもね。
「はあ、やはり貴族のお客様がいると緊張いたします。いえ、嫌なわけではございませんよ?
ただ、今日は朝からお見えになりませんので、ちょとほっといたしました」
着替えを手伝いながら、カレンはそう片目をつむった。

「御髪はどういたしますか? 今日はいつものが見当たらないようですが・・・・・・」
「え?」
さっきまでカレンと談笑していた私は、その言葉に凍りついた。
「ない?」
「ええ。ルネ様がいつもおつけの髪飾りなら、ないですねえ」

そん、な。え、ちょっと待って。なんで? なんでないの?
私がアレを失くすなんてありえないんだけど。
昨日は確かにあった。
朝つけて・・・・・・そして・・・・・・。

──その髪飾り、とってもすてきね。──

空耳のように、ネージュに昨日言われた言葉が蘇った。
そして・・・・・・。
「これはダメよ」
そう言って彼女の手を掴んで止めた。瞬間・・・・・・。

「まずい! 大変だわ」
あれはただの髪飾りじゃないのに!
ネージュはアレが何なのか気づいたのかしら?
もしそうなら・・・・・・早く取り戻さないと大変なことになる。
「ブランシュ! ブランシュ!」
どうしよう。
どうして忘れていたのかしら。あれがなくなっていることを。

「今日は気分を変えて他の髪飾りにしますか?」 と首を傾げるカレンを置き去りに私は走り出した。
「ブランシュ! ネージュが、ネージュに聖剣の核を持って行かれたわ!」


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11/05/18
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