無限の太陽、永劫の月

   真実は白き誓いの影



大きな爆発が起きた。 金色の光と、暗い闇がぶつかり合い、せめぎあっている。
そこにあった建物は吹き飛び、まわりの木々が根もとから消し飛んだ。
目的を見失い、暴走しているかのような金色の光と、それを歓迎するかのように周囲を破壊する暗い闇。
そのせいで周囲には何もなくなった。
風とともに土煙が消えた後、金色の髪の少女と白い髪の少年と、それにこの国の王子であるルエリだけが立っていた。

黄金の髪を持つ少女は明らかに自分の力に飲まれていた。
我を忘れたように魔力を垂れ流し、目は空ろだ。
しかし、何も映さないその目はしばらくすると急に自我を取り戻した。そして自分の背丈よりも大きなロッドを回転させた。
それと同時に急速に黄金の光は収束し、次に、ルエリの発する闇の力を自身の魔力で抑え付けようとした。
しかしルエリの持つ力は彼女の比ではないのだろう。
彼は涼しい顔でそれを打ち砕く。
「くっ」
少女が苦しそうに顔をゆがめた。

「ルネ?」
白い髪の少年が心配そうにそれを見つめる。
その手にある剣が、少年を二人の放つ魔術から守っているのだ。
「今のうちに君を殺しておかないと、いけないよねえ?」
ルエリは何が楽しいのか、その顔に笑みを浮かべた。
「次で終わりかな? そっちはもう、ほとんど魔力も残ってないようだしね」

それと同時に3度目の闇がルネたちを閉じ込めた。
今度は、一気に夜が来たのかと誤解させるほどの暗闇だった。
白い髪の少年、リオの持つ剣の守りも消えそうになり、彼は体を縮めた。
「大丈夫」
瞬間、発せられたルネの声はいつもより低いような気がしてリオは彼女に目をやった。
「だけどさすがに、僕1人だけであれの相手をするのはキツイな」
ルネはそう言うと、リオに向かって大人っぽく微笑んだ。

「ルパーティス。ルパーティス・トールアダムス・シェン・ブルーナ」
ルネが誰かの名を呼ぶ。そのとたん、周囲になぜか魔界の空気が立ちこめた。
リオは不思議に思い辺りを見回した。いや、ここは人間界バルザールで、何度確認しても魔界ではないはずだ。
そんなリオの疑問に答えるかのようにルネが、いつの間にか背後に立っていた人物に向かってつぶやいた。 「あれ? ルパート、君なんで小さいの・・・・・・」
「うるさい!」
緊張する場に突如現れたのは魔界の王ルパーティス・アダムだった。
そして、そんな2人ののんびりとした会話に安心したのか、リオは不謹慎とは思いつつ笑ってしまった。

「あれ、どうする?」
ルネは魔王に、生ゴミを処理するかのような気軽さで聞いた。
あれと呼ばれたのはルエリだろう。
それにしても・・・・・・リオは首をひねった。
魔王陛下は魔界から出る事はないと聞いた事があったからだ。
そんなリオの疑問をよそに、2人はしばらく目で会話でもしているみたいにお互いを見つめていた。
さっきの2人の軽い口調に反して、事態はそれよりも深刻らしく、お互いにその額にうっすらと汗をかいている。
「どうするも何も・・・・・・あれは5人揃ってやっとなんとかなるものだったろう。ここで雁首つき合せていても埒があかん。 いったん引くしかあるまい」
「しょうがないか。君と僕、それにリオだけじゃまだ無理だね」
「うむ」

ルエリの力がなんなのか、二人には分かっている。そう思えるやり取りの後ルパートが魔界への転移門を開こうとした。
「させないよ!」
気づいたルエリがルパートに向けて魔弾を放った。
しかし、それを今度はルネが遮った。
ルエリは舌打ちし、攻撃の対象をルネへと移した。
ルネはルエリから放たれる魔弾を煽るようにギリギリまで寄せ付けてから巧みによける。
決してルパートに、流れた魔弾が当たらないように計算しながら、けれどルエリの意識がルパートに向かないように彼に視線をやることなく。
息の合った完全なる連携に、リオは目を丸くした。

「いいかげん、ちょこまかと逃げ回るのはやめなよ」
余裕を見せつけるような穏やかな顔だったルエリが、だんだんと顔を歪め、怒気を荒げる。
そして、もう一度巨大な暗闇を形成しはじめた。
その大きさから、一人一人倒すことはやめて、3人いっぺんに片付けることにしたらしい。
「ここまでか」
ルエリの作り出した巨大な魔力の塊をみて、ルネはそういうと自分を盾にするためリオとルパートの前に立った。
それからアースシールドの詠唱をはじめた。
「そんなもの、消し飛ばしてあげるよ!」
そう言ってルエリが闇を打ち込むのと、ルネのシールドが完成するのはほぼ同時だった。

しかし、予想通りルネのシールドは闇に押されはじめる。
「・・・・・・くっ」
ルネはそれを歯を食いしばって耐えた。
「ルンネ!」
シールドが消え去ろうというギリギリのところで叫ぶ、ルパートの声が聞こえた。
と、その声を待ってましたとばかりにルネはリオの襟首を引っ掴むとそのまま完成した転移門へと飛ぶように身を投げた。
──そして、3人はその場から消えた。

自らのはなった魔法に、急に手ごたえを感じなくなったルエリは、一瞬でその体に闇の魔力を納めた。
そして、
「あーあ。逃げられちゃった。残念だなあ」
ぜんぜん残念そうに聞こえない能天気な声でルエリは言った後、次にもう少し小さな声でつぶやいた。
「もうちょっとで僕のものになるところだったのに」



目が覚めると私は見慣れたベッドに寝かされていた。
ここは魔界・・・・・・。
分かってる。
ブランシュを殺された私は、我を忘れて魔力をすべて開放したんだ。
そして、ルルロッドを使ってまだ一度も成功したことのない魔法を使った。
あの時の私は頭に血が昇っていて、ルエリを倒すことしか考えられなかった。
他はどうでもよかった。
この世界のことも、自分自身の命さえも。

そうして私は自分の魔力に飲み込まれた。
このまま魔力を暴走させたままルエリの力で私は殺されちゃうんだなと思った。
だけどあきらめかけたそのとき、懐かしい声がした。

それから私の体は私の意識に反して勝手に動き出した。
まるで夢でも見ているかのように。

ベッドから出ようとして、脇に手を置いた瞬間、何か硬いものが私の手に当たった。
それに何気なく目をやれば・・・・・・。
「聖剣、ブランシュ?」
それは私のベッドのすぐ脇に、そっと立てかけられていた。
手を伸ばし両手に抱えた瞬間、あの光景が頭の中を埋め尽くす。
真っ赤に染まった絨毯、横たわるブランシュ・・・・・・動かない。
「ねえ、うそ・・・・・・だよねえ」
私の口から小さく漏れた声に答える者は誰もいない。

「──ふぇっ」
こらえきれず私の口からは嗚咽が漏れだす。
だってだって、そんなこと信じられない。
私が小さな頃からずっとずっとブランシュは私の横にいた。
それでこれからもずっと、一緒にいるって、そう思ってた。
この世界にやってきた日、約束したじゃない!
私は王女でもなんでもなくてただのルネで、ブランシュの妹。ブランシュはずっと私を守る兄。
そう言って、そう言って約束したじゃない!

ベッドの上で膝を抱えると、聖剣を抱き込んだ。
「ブランシュ・・・・・・」
この世界で、私、ひとりになっちゃったよ。
何かあっても、ブランシュがいれば平気だったのに。
「本当に、いなくなっちゃったの?」
・・・・・・どうして私を置いていってしまったの?

「様子はどうだ?」
「それが──」
いつの間にかルパートとヘルが様子を見に来ていたみたいで、ぼそぼそと声が聞こえる。
だけど今は動きたくない、顔もあげたくない。誰とも話しなんてしたくない。
外のすべてを拒絶するように、膝を抱え込んだ腕に力を入れた。

だけどそんな私にルパートは声をかける。
「大丈夫か?」
──大丈夫じゃない!
「気持ちは分かるが・・・・・・ブランシュは最強の騎士だといつも自慢していたじゃないか。 今回だって、お前を守りきる事ができたんだ。よくやったと褒めてやったほうがアイツも嬉しいんじゃないか?」
「そんなこと、嬉しいわけなんてない。死んでよくやったなんて、褒めるなんて・・・・・・。そんなこと、絶対ない!  それにブランシュはもうすぐ父親になるところだったんだよ。それなのに」

もうすぐ生まれるって、トリシャは嬉しそうにしてた。
ブランシュもこの世界で伴侶を見つけ、幸せそうだった。
それを私が一緒に来てってお願いしたから・・・・・・。こうなるって分かっていたら、連れて行かなかったのに。
そう・・・・・・。
「いっそ、私が消えればよかったのに!」

完全な八つ当たりだって分かってる。
それでも私は自分を止められない。
ルパートに向かってそう言った途端、彼は思いっきり私の頬をぶった。
「ブランシュが命をかけて守ったのは、こんな人間か? お前はあの男の墓の前で同じ言葉が吐けるのか?」
痛くて頬を手で押さえたけれど、こんな痛さ、命を失ったブランシュに比べたらなんてことない。
それなのに、彼にぶたれた瞬間、我慢してた涙が止まらなくなって、私は子どものように声をあげて泣いた。

「うわぁあん。わぁあん、ひっく。ううう」
だって、だって私はブランシュがいないと生きていけないよ。
この世界にただ1人取り残されて、一人ぼっちでどうしたらいいのか分からないもの。
それに、私はいなくなっても誰も困らないけれどブランシュがいなくなったら困る人はいっぱいいるのよ?
だからブランシュでなくて私が・・・・・・強い魔力のせいで誰からも受け入れてもらえない私なんて、必要なかったのに。
どうしてブランシュが先にいなくなっちゃうのよ。


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11/05/24
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