すべては、あなたのために・・・・・・

   第1章 シークレットアイズ   ー1ー

それはメガネをかけたファンの瞳に直接飛び込んできた。
今までこんなに強い輝きを見た事はない。
ファンはその光の根源を求め、歩く速度を速めた。
(どこなの? どこにいるの?)
心の中で光を放つ人物に声を投げかけるように、その言葉を何度も繰り返しながら光の導くまま城の裏に回った。

そして──。
「見つけた」
ファンが見たそれは、意外な場所から漏れていた。
(それにしても、なんで・・・・・・こんなところから?)
疑問に思いながらも一歩、また一歩と引き寄せられるかのように踏み出すファンだったが、後ろから聞こえた声でその行動は遮られた。
「おい、ここに来てはならん。お前は城の下女か? 早く立ち去れ」

そこには鋭い探るような目をした兵士が立っていた。
この兵士もそうなのだが、城のほとんどの者がファンの身上を知らない。
彼女が本当は召喚によって間違って呼ばれた者だということを。
なぜなら召喚をした王子たちは何も言わないし、ファン自身も特にそれを言うつもりはないからだ。
「あそこには・・・・・・何があるのですか?」
昨日まではいなかった兵士が裏庭に配置され、その場所には見張りと思われる者が立っていた。
「お前には関係ないが、まあ、教えたってどうってことないか」
男はメガネをかけた地味な下女の姿に気を許したのか、そう言って教えてくれた。

「あそこは地下牢だ。さっき戻られたアレイサー様が捕らえた、イルザスの末王子が繋がれている。
と言っても短い間だがな。確か3日後に処刑が決まったはずだ」
兵士はそれだけ言うと追い払うかのように、ファンに向かってしっしっと手を振った。

その後ファンは、今日の仕事をすべてやり終え、自分にあてがわれた部屋に向かいながら思った。
──違う。彼は死なない。
あれが3日後に処刑される者の魂の輝きであるはずがない。
メガネをしていてさえ、あんなにもはっきり見える光なんて、今まで一度も出会った事なかった。
(本当にあんな人、いるんだ・・・・・・)
もう一度さっきの光を思い浮かべ、そして息を吐いた。
その途端、エリーズにずっと昔に言われた言葉が蘇ってきた。

「そのメガネをかけていれば、お前の視界もみんなと同じになるっていうけどねぇ・・・・・・。
そんな封印が役に立たないくらい強い光を持つ者っていうのが、いつかは現れるんじゃないかと私は思っているよ。
もしそんな人物を見つけたら、たぶんその人こそがファンのその力を一番に必要としている人物なんだよ。
だから私なんか放っておいて、その人の役に立っておあげ。いいね?」
今まで忘れていたエリーズの言葉・・・・・・。
彼女はファンにそう言い残した次の日、事故であっけなくこの世を去ったのだった。

(だけど・・・・・・無理だよ)
ファンは途方にくれ、ため息をついた。
なぜならエリーズのその遺言に従うならば、地下牢に繋がれたその人物を助けなければならないからだ。
(そんなこと、私にできっこないよ)
立ち止まり、来た道を振り返った。
そして、ファンは確かめるようにメガネをはずしてみた。

ファンの目は生まれつき、ほんの少しだけ普通の人とは違っていた。
彼女はその目で見た人の行き先を見通したり、感情を読み取ったりする不思議な力を持っていたのだ。
いつもはメガネで封印しているけれど・・・・・・エリーズに引き取られてから、ファンはその力を彼女のために使っていた。
彼女の会社が大きくなったのも、本当はそのせいであったのだが、これはファンとエリーズしか知らない話。
もちろん、今のファンの周りにいる誰も、彼女がこんな力を持っているなんて知る者はいない。

「やっぱり、すごい輝きだわ」
メガネを外し、じかに見たそれは息を呑むほどの美しい輝きだった。
その光を見た瞬間、なぜだか不思議とファンの迷いは消えていた。
(助けよう。どんな事をしても)

その時、まばゆい光に影がさした。
(どうして? なんであの光に絡みつくように、黒い蛇のような影が見えるの?)
「死と、それに裏切り・・・・・・?」
その影を見つめ、ファンは誰ともなく無意識に呟いていた。


10/03/09


   web拍手
Back ListTop  Next
Home

HOME
Copyright © Kano tsuduki. All Rights Reserved.
inserted by FC2 system