無限の太陽、永劫の月

   無知は罪?



事件はよくある権力争いに落ち着いた。
発端はリオが私の髪飾りを盗んだこと。
そして、そのまま私がリオの屋敷に攫われたことを、やっぱりヘルは知っていた。
それをちょうどいい機会だと思ったのでしょうね。
ヘルは私を使ってグラエスを罠に嵌めようとしたみたい。
しばらくこの国を空けていた間に力を付けたグラエスが邪魔だったからというのがその理由。

だけどそれは、魔王自らが介入することであっけなく幕を下ろした。
たぶん少年・・・・・・ルパートに助けられなければ私は今ごろヘルの思惑通りグラエスを叩きのめしていたはず。
それが、ヘルの策だと知った上で。

こういう状況は初めてじゃない。
私は容姿だけ見ればただのか弱い少女にしか見えないから、政治的な駆け引きの道具として使う目的でよく攫われた。
いわゆる、人質というヤツね。
でも、そのたびに私を攫った人間はもちろん私自らの手で再起不能のダメージを与えてきた。
だって私を楯に自分の要求を通そうとするなんて、そんな甘いことを考えるやつなんて潰れて当然だもの。
だから今回も。

ヘルが、攫われた私を利用してグラエスの陣営を内部から崩壊させる気だってすぐに分かった。
彼は日ごろ、私を守るって言ってるけれどそれには理由があって、決して私個人のためじゃないってことも知っているもの。
だからこそヘルが、こういうときに躊躇いなく私を道具として使うだろうとある程度は予想はついていた。
そうでなければ魔界のナンバー2なんて地位にヘルはいなかっただろう。

予想が付かなかったのは・・・・・・ルパートのことね。
魔界の王は思っていたより、目も耳もいいみたい。
そして、手が長い。
彼がなぜあそこまで怒っていたのか疑問だけれど、圧倒的な魔力の差を見せつけて争いが起こる前に力でねじ伏せた。
魔界は魔力がモノをいう世界だもの。あれだけの差があれば証拠も何も無しで解決できてしまうみたい。
人間の世界ではこうはいかないけれど、早々にコトが落ち着いたのはありがたいわ。

だって、私は気づいてしまったもの。
今現在の私に足りないものの存在を。
私のことをお客さん扱いしているヘルからは、ほとんど聞きだす事ができないモノ。
できるだけ早く私はそれを手に入れたい。それも、できるだけ多く。

何も知らなければ、巻き込まれることはないと思っていた。
今まではそれでいいと自分に言い聞かせてた。
だって、この国に来た目的は先の蒼髪の魔女との大立ち回りのほとぼりが冷めるまでの避難を兼ねた観光。
ただそれだけだったもの。
だけど・・・・・・人間の国では権力とも地位とも無縁で権力争いを冷ややかに傍観していたヘルも、自国に戻れば同じようにそれに身を投じる立場にいる。
そしてココにいる限り、近くにいる私に降りかかる火の粉がゼロとは言いがたいのよね。

だったら、どうせ巻き込まれるんだったら情報は多く持っていたほうがいいと思わない?
無知でいることは、私には無理みたい。

──で、ここで問題が一つ。さっきも言ったようにヘルは私にこの国の情報をほとんど与えてくれない。
だったら・・・・・・自分で何とかするしかない。
だけど、ヘルの屋敷にほぼ篭りっぱなしだった私に、この国での知り合いはいないに等しい。
今さら、無知である事が私に行動の制限を課していたことに気づく。

「これは、できるだけ早くなんとなしなきゃいけないわね」
ため息混じりに思わず声に出し呟いた。
だって、早くしなければ。私が知らないでいるうちに、取り返しがつかないコトが起こる前に。
今度は、今度こそは誰も犠牲にしたくない。アールグレイのような悲しいヒトをこれ以上出したくないの。


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10/12/30
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